この街では珍しく雪が舞っていた。
その街の公園の前で先程から彼女は涙を流していた。
彼女の姿は夕暮れ近く家路を急ぐ人々の関心を引く事はなく唯一人近くの喫茶店のマスターが見かねて声をかけた。
「待ち合わせ?そこの店の者だけど寒いから中で待ったら?別に注文なんてしなくていいから…」
雪は本格的に降り始めていた。
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彼女は事故で記憶喪失になっていたが大部分は一時的なもので戻ってはいた。
唯何か大切なものが心の奥に眠っているようだった。
この時も彼女自身よくわからない強い衝動に促されそこにやってきていたが突然理由も分からず哀しみに包まれていた。
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喫茶店の片隅の席で彼女は泣き続けた。
マスターが声をかける、
「余計な事だけど気が済む迄泣いて涙と一緒に悲しみを流せばいいんじゃないかな…」
彼女は前にも同じような言葉を聞いた覚えもあって心温かくなっていた。
いつしか雪も止み彼女の涙も消えていた。
彼女はマスターにお礼を言って店を後にした。
彼女は蒼白い幻想的な街を歩きながら(必ず思い出せる!)と確信していた。
クリスマスの奇跡は起きなかったけれど。
<了>
今木 洛
ONE LIFE
コメント
コメント一覧 (2)
まだここに記憶の棘 哀しみが抜けないの♪
ちょっと苦しいよね
(^-^;